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見えない敵との
「終わりなき闘い」。
医療の進歩とともに歩み続ける
感染対策室の大きな役割。

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早期の対応が功を奏し感染拡大を食い止めた。

「何かがおかしい」。今年1月上旬、感染対策室の呼吸器内科部長 鈴木雅之医師は、静かに迫る「異変」を感じていた。職員のインフルエンザ罹患者数が数日で激増していたからだ。
 インフルエンザにかかる職員は毎年発生する。ただ、今年は市内が流行期に入っていないのに例年になく高い発生率を示していた。1月7日から徐々に感染が拡大し始め、11日にはピークに達する。医師や看護師から他の職員や患者へ感染が広がり、さらに救急病棟にも感染が拡大し始めていた。「院内アウトブレイクだ」。鈴木医師はつぶやいた。
news59-sr-1.jpg アウトブレイクとは、特定の集団内で予想以上に感染者が発生すること。医療施設での感染率のベースラインよりも、統計学的に明らかに高い頻度で発生している場合などを指す。鈴木医師はこれが院内で起きたと判断、即座に感染制御を開始した。感染拡大を抑えるため、名古屋第二赤十字病院で初の抗インフルエンザ薬の予防投与と病棟単位での患者さんの移動制限を決断。職員約300名、患者約200名に予防投薬を実施した。この迅速な判断が奏功し、事態は徐々に鎮静化。24日には罹患数が正常値まで低下した。院内感染は最小限で食い止められたのだ。「今回のインフルエンザでは、全職員と患者さんの協力で教科書的な対応がスムーズに取れた」と鈴木医師は振り返る。

感染対策室が中心となりガイドラインに基づいた対策の標準化を推進。

 同院が特に感染対策に力を入れ始めたのは1996年。ちょうど抗生物質の効きにくい耐性菌が注目を浴び始めた時期だ。以来、国際的なガイドラインに基づきながら、病院を挙げて感染対策に取り組み続けてきた。今回、インフルエンザの院内感染を抑止できたのも、この感染対策室がうまく機能したからに他ならない。
 感染対策室の大きな役割は、主に院内での感染対策の標準化にある。感染対策は各部門が単独で動くのではなく、あらゆる部門が組織横断的に関与しなければ意味がない。それぞれの部門が各自の思いつきで対策を講じていては、感染拡大は食い止められないのだ。そのため、感染対策室が中心となり、リンクスタッフの配置、ネット学習などを通じて、院内の感染対策の標準化に熱心に取り組んできた。

感染症は、耐性菌の登場で再び治らない時代に。

 その昔、感染症は医療の主要なテーマだった。感染による死亡をいかに減らすのか。医療の歴史は、いわば感染症との闘いの歴史だともいえる。ペニシリンの登場により感染症は治る時代に突入して、感染症との闘いに終止符が打たれたかに見えた。そこに現れたのが、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に代表される耐性菌である。感染症は再び治らない時代を迎えたのだ。
 こうした耐性菌に対し、万全の感染対策を講じるためには「組織力」が不可欠だ。同院でも、病院の各部門が総力を挙げて感染対策への努力を続けている。
news59-sr-2.jpg 耐性菌などの感染制御に大きな役割を果たすのが、微生物検査室だ。感染対策室員の川島 誠臨床検査技師は、患者からの検体を元に、耐性菌の発生を日夜チェックしている。また、佐々弥栄子薬剤師は、耐性菌に使える抗菌薬の適正使用や、使用症例の把握、用法・容量の確認を徹底する。看護部では、感染対策に向けた啓発活動を実施。一昨年より救急病棟で、試験的にアルコール手指消毒剤の携帯を開始した。それにより使用量が2倍以上に増加したため、昨年11月より全部門に携帯型アルコール手指消毒剤を導入した。
 こうした部門ごとの地道な活動が、耐性菌の感染拡大を未然に防ぐ原動力となっている。

院内だけでなく、地域での感染対策を確立していくのが目標。

news59-sr-4.jpg これからの課題は、感染対策をいかに地域へと広げていくかだ。そのため同院では、外来患者や地域住民への啓発活動にも熱を入れる。今年1月末から2月にかけては、感染対策室員や臨床検査技師らが講師となり、1回15分程度のミニレクチャーを実施。手の菌の付着状況が目視できるパームチェックを行い、手洗いの重要性を再認識してもらった。


news59-sr-6.jpg さらには、他病院との連携も進めている。同院では、東名古屋病院と連携して相互訪問を行い、互いの改善点を指摘し合う活動を展開。相互評価を行う4病院が集まり実施された勉強会では、同院が感染対策を指導する場面もあった。こうした動きは今後も順次拡大されていく予定だ。
 「最も重要なのは、どれだけ感染対策の考え方を浸透させられるかです」と鈴木医師。「感染対策にゴールはありません。そのなかでどうやって順守率を高めていくのか。患者さんの協力も必要で、啓発活動や病院相互の連携などにも力を入れ、院内から地域へと感染対策の裾野を広げていきたいと思います」。
 近年は療養型の医療施設に転院したり、在宅で療養する患者も増加している。大切なのは、媒介が誰であっても患者を感染症から守ることだ。どうやって地域全体の感染を制御し、感染症の脅威から人々を守るのか。名古屋第二赤十字病院の〝終わりなき闘い〟は今後も続いていく。

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